1900-05-01から1ヶ月間の記事一覧

今日かぎりの小説

ある文章が小説として読まれるための唯一の条件は、それが今まで書かれた小説とどこかしら似ているということである。今までに書かれたどんな小説とも似ていない文章、がもしも小説を名乗っていた場合、われわれはそれを悪い冗談と受け止めるか、あるいは作…

小説の狂気

小説という形式には、正気ではないものが多く含まれている。たとえば描写には、対象を細密に言葉に移し替えていく過程で、逆に対象そのものから遠ざかってしまう性質があることはよく知られている。部分を綿密に言葉で埋めていっても、対象の全体像には永久…

読書ノート・「こゝろ」

漱石の「こゝろ」を今、電車移動中などにちびちびと読んでいる。それで考えたことなど。前のセンテンスに現れた情報を、次のセンテンスでも軽く反復しながら、新しい情報もそこにまじえることで少しずつ、先へ行ったり、後へ戻ったりしながらも、物語の「面…