2006-01-01から1年間の記事一覧

帽子 あなたが私のヒモでいたあいだ、私は赤い帽子の似合う犬を飼っていた。犬に似合う帽子はあまり多く存在しない。あなたがそれを見つけてきたことが、あなたを少しのあいだ私のヒモにしたのかもしれない。犬が嫌いで、まるで殺されそうな目で見ていたあな…

理想の私小説

悲惨な話ばかりが穏やかな(つまり底を打った感じの)微笑みとともに語られ、その微笑みが悲惨さからの回復という意味を必ずしも印象づけないのに、読んでいて前向きというか、いや、それが前かどうか分からないのだけど、どこかへ向けて顔をあげてそちらに…

てのひら怪談

ポプラ社のウェブマガジン・ポプラビーチで毎週火曜日更新の「週刊てのひら怪談」というコーナーが先週から始まっております。今週、すでに日付かわって今日になりますが、私の書いた「亡者線」という掌編も載ることになっております、ということの宣伝にまいり…

描写不全

「銀河鉄道の夜」を少し前に読んだ。頭の中(の言葉の中)でしかありえない感覚を逃さないようせかせかと畳みかけるふうな文章に好感を持った。書き手にぜんぜん余裕がなく読者と同じ立場で「ほら、あそこ見て!」「こっちこっち、はやく来て」とあわただし…

ゴシックハート

意味のあることを書かなくて済ませるには書き続けることなのだが、ちょっと気を抜くとすでに書き続けていないのだ。そして書き続けていないところには書き始めないと書き続けることができず、書き始めることは意味ありげで私は自分で自分の書き始める様子に…

誰が見ても人でなし

中原昌也「誰が見ても人でなし」(「群像」十月号)。初期の中原昌也が小説の余白にものすごく面白い落書き(落書き付きの小説ではなく、余白の落書きのみでそこにない小説を意識させるようなもの)を書いていたとすれば、ここ数年の中原はあくまで小説その…

スイッチ

考えてないことを書くことで私はそれを考え始める。

鮪と文学

指にささくれが出てじゃまだったので毟ったら血が出た。そのへんに付いたらまずい(バイト中につき)と思ってあわてて舐めたらマグロの赤身の味がした。マグロ食べるとき、ようするにあれは血の味が今までしてただけか、ということだ。でも血なんていくらで…

線を歩く この世界を二つに分かつ境界線と彼が信じているものは実際には、彼の足もとを半径1メートルのところで囲んでいる小さな円にすぎない。 彼と、彼以外という一対一。たしかに世界は真っ二つに割られているのである。 境界線にぐるり囲まれた男はつね…

懸賞とBGM

9月18日の日記で参加した、web anブログキャンペーン「夏のトラックバック宣言」でなんと5000円分のQUOカードが当選しましたよ! うれしい! はっきりいって当選する気満々だったのですが、する気満々で実際にQUOカードを当選にいたらしめたのはこれが二度目…

物語の記憶喪失

『タイタンのゲーム・プレーヤー』フィリップ・K・ディック。 長編に破綻がつきもののディック作品中でもとりわけ破綻してるらしい一編。と聞けば大いに期待してしまうのだが、意外とそんなに滅茶苦茶でもないんじゃない? ていうかどこが破綻してるかよく…

字間感覚

ここんところ仕事をせず小説書いたり短歌をつくったりばかりしてたら調子が出てきた。やはり私は仕事しながら小説書いたり短歌をつくって調子がよくなることはできない、と思う。同時に二つのことができない(短歌と小説は二つのことではなく、一つのことの…

補足

説明小説=あらすじ小説っていうことですね。 ボルヘスもそうだ。というかボルヘスが大家じゃないかその筋の。

シールの話

シールを貼り続けていると私はやや恍惚となる。台紙から剥がし取る快楽。二度と剥がせないものにそれを貼り付ける快楽。この作業はつねに二段階であり、一方通行である(シール剥がし液の存在になど目もくれるな)。私はシールで小説を書くべきかも知れない…

万博を片付ける

働かなくては生きていけない。働かなくても生きていていい国は(少なくとも私には)地球に存在しない。私は無職だが働かないわけではなく、瞬間的に職について瞬間的に給料を貰う。そして全体として長い目で見れば無職である、という状態を維持している。そ…

50円

本日、平山夢明氏が読売の夕刊に大々的に特集されることをミクシィの平山コミュなどで知った。しかも50円だというのでこれは買うべきであると思った。傘を差して近所のコンビニを順番に回るが見つからず、家からどんどん遠ざかってゆく。Tシャツに半ズボン…

女子トイレで女装

読みかけで何ヶ月も放ってあったディック『ライズ民間警察機構』を再び読み始めた。いまニセの女子トイレにフレイア・ホルムという女の人が突入したところまで読んだけど、もう素晴らしすぎて呆れますね。突入先はトイレのかたちにカムフラージュしたテレポ…

歪みと実話

『幽霊物件案内―怪奇探偵のマル秘情報ファイル (ホラージャパネスク叢書)』などの小池壮彦氏が描く怪談実話は、ひとりの人間の視野の限界からくる見通しの悪さが恐怖の温床となっているところがある。それは個人のビジョンにつきものの歪みをあえて温存する…

花とチャック

今日は歌葉新人賞(ネットで公募され、BBSで公開討議、会場で公開選考される短歌の新人賞。今年第五回をもって終了)候補作の発表される日です。 三人の選考委員の先生のうち、正午を回った現在加藤治郎氏の選が公開されています。 http://www.sweetswan.com…

写すだけ。

ミクシィで最近書いた日記のうち本や映画の感想を、以下にいくつか転載。 絲山秋子『逃亡くそたわけ』を読んだ。うまくて、気持ちよく、おもしろい小説だった。 全体に作者のコントロールが行き届いているけど、頭の中で組み立てたという窮屈さはない。博多…

間取り図と神

部屋の間取り図というものが魅力的なのは、現実の部屋に対してはけして立つことのできない位置に見る者を立たせるからである。 それは一種の神の視点だが、そう呼ぶにはあまりに卑小な世界の俯瞰っぷりであり、まるで牢屋に閉じ込められた神の視点を思わせる…

恐怖映像

夏の風邪は不快感が体調のものか気候のものなのか、境目を見失うところがいやですね。日本中の不快指数が私の風邪のせいみたいに思えかねないところが。 (これからしようとしてる話と関係ないけど、日本列島はどことなく人体に似てる、北海道が頭みたい、な…

〆切られて。

日付変わって昨日はビーケーワン怪談大賞の〆切日でしたが、すべり込みで一本だけ送りました。 『茉莉花』。 今年はもう(スイッチ入れるのが)間に合わないなーとほぼ諦めていたものの、読み始めたばかりの超怖の最新刊がぎりぎりで(あっこんなとこにあっ…

うすい道 人間は、人間でいるあいだだけ人語を話すのだ。 それはほんの数十年ほどのできごとにすぎない。 残り数百年間は、印刷物の余白みたいな顔で沈黙をまもる。 さらに外側にひろがる数千年は異常にさわがしいとりとめがない工場のようだ。 もちろんここ…

夏だから。

ひさしぶりで日記でも書こう。知ってる人しか(ほぼ)見てないから気楽だし。という迂闊な気持ちでつまらない日記をいくつか書きとばし、しっぽを巻いてミクシィから帰ってきました。白いTシャツから黒いブラを透けさせて自転車を漕いでった、世田谷の知ら…

脈は乱れて

どうやら自分が不整脈持ちらしいことがわかったので、持病リストに不整脈を追加したばかりの中年男の日記になります。 数日前なんとなく体内のリズムが狂って軽くつんのめるような感覚が(体内で)頻発したので、そういえばこの感じは以前も経験あったなと思…

寝かせる。

貧乏と貧乏性の区別がつかなくなることが貧乏の最大の弊害だ、ということを考えるでもなくただ言葉として頭に思い浮かべつつ、思い浮かべたそばからこうして頭の外に書き写してしまうとします。すると頭の中はその言葉を留めておく責任を逃れたと安心し、す…

事情通 この世に居る場所がなく、彼女は歴史に残るしかなかった。 対角線 二段ベッドのすべての二段目でねむられる眠りがつながると、夢はどこまで歩いても尽きないほどだらしなく領地を広げてしまう。目ざめるたび異なる二段ベッドの二段目に、驚いたことに…

「よ・ね」体。とか文体のことをもう少し。

というわけでですね。 昨日の日記のコメント欄に書いたのですが、私が昨日述べた「です・ます」体というのは実は「よ・ね」体のことではないかと。「〜ですよ」「〜ますね」という語尾を適宜盛り込んでゆくことで、生じるニュアンスみたいなものが、私にはど…

文体のことなんて本当は考えたくないですよ。

こういう日記的なものを書くとき私はたいてい「だ・である」体で書くんですが、たまに「です・ます」体で書いてみると文章との距離感というか、文章と自分の関係がまったくべつなものになってしまうので驚きますね。 「だ・である」だと私はほとんど自分の頭…