2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

低い部屋で読書

私は高いところに住んだことがない。 実家は二階建ての一軒家で、生まれてから二十五歳までそこに住んでいた。 次に引っ越したのは十階建てマンションの二階。 そこで二年暮らしたのち、二階建てアパートの一階に移り住んで十数年(現在に至る)。 二階以上…

叙事性についてのメモ

人間界のドラマは、真実などどこにもないという態度で事実の羅列として語られる。 そのことを仮りにドラマ的叙事性と呼ぶことにする。 真実は共同体によって保証されるもの(幻想されるもの)だが、現在われわれが接するドラマは特定の共同体の中でのみ流通…

今日発売の怪談専門誌『幽』vol.7に、私の書いたてのひら怪談「旅館」が載っていると思います。 今号もきっと凄いボリュームだと思いますが、その中のほんの八百字ではありますが、できるだけさまざまの人の頭のなかで、解けない知恵の輪みたいに、読んだあ…

とかげ 階段の下に知らぬまに彼が部屋を築いている。彼とは若い女である。女とはその国で無作法な物乞いを意味する動詞である。したがって今読まれている文章は、動詞が誤って名詞に訳された無残なものだが、描かれている彼にそれを知るてだてはない。部屋は…

幻想とストーカー

長野まゆみ『よろづ春夏冬中』読了。幻想を書く文章としてこの本は理想的だと思った。平易ですごく読みやすいんだけど的確にツボを押えるというか、あの世的なものへの分岐をちらつかせつつ、あくまでこっち側の道だけをぎりぎりで歩んでみせる。そのあたり…

『NHKにようこそ!』 滝本竜彦

非常におおざっぱにいうと、無条件に好感のもてるタイプの小説ということになる。その意味では私はこういうのが“景色”として好きなのであって、個別の作品としてどうこうという感想はあまりない。細心の注意を払って読む必要のない、きっと今ここを読みとば…

未読の山

私は読書量がとても少ないのでこの世にいかにも面白そうな未読の本が山ほどあるのだが、読書のストライク・ゾーンもまたおそろしく狭いためにそうした面白そうな本をたまに手に取ってめくってみたとしても、たいてい何かと理由を見つけてすぐに頁を閉じてし…

昨日や今日読み終えた本

『文學少女の友』千野帽子。 著者の前著のタイトルが『文藝ガーリッシュ』というので、何か読む前からどんな本か分かったような気分になり(今もそちらは未読)敬遠していた。 が、テレビブロスで豊崎由美氏による書評を読んだらタイトルや著者名(ちなみに…

バランスについて

われわれは何かを無償で讃えることを苦手としている。その何かを讃え持ち上げるための錘として、別な何かをかわりに傷つけ貶めずにいられないということがある。 もともとお世辞にも心根のきれいとは言えないわれわれが、奇特にも嫉妬の感情を抑えて他者に賛…