2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その6回目)

「使命」水棲モスマン この作品が巧いと思ったのは、レストランの看板絵の取り扱い方です。牛がナイフとフォークを握って、同類の肉を前に笑顔を浮かべる絵。鳴き声に由来する、何のひねりもないだじゃれ台詞を書き込まれた、キッチュな看板絵。この絵をわれ…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その5回目)

「カミソリを踏む」朱雀門出 この作品は一人称の、ほぼ現在形だけで書かれています。 一人称の語りには“語る私”と“語られる私”という二人の私が発生することはわりとよく知られていますね。 選手と実況アナを一人で同時に務めるみたいな「私」の役割の分裂が…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その4回目)

「磯牡蠣」有井聡 この作品の魅力を一言でいうと「実話的な迫力」とでもいうべきものでしょうか。 西暦や固有名詞、バカ牡蠣という馴染みのない言葉などが説明無くいきなり並ぶ。怪異もその流れで当然のことのように描かれる。いちおう不思議な事件として語…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その3回目)

三回目をやります。朝晩咳が止まらなくてつらいです。 「灯台」牧ゆうじ この作品、まず文章が好きです。文章にかぎっていえばこの本の中で一番好きかもしれない。 私は教養がないのでアホみたいなたとえになりますが、翻訳小説みたいですよね。○○文学、とい…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その2回目)

「厄」松本楽志 この作品は『てのひら2』の中では比較的読者を選ぶというか、広く流通するタイプの書き方ではない小説ですよね。 批評用語としては間違った使い方だと思うけど、「厄」はリアリズム小説ではない、という言い方を仮にしてみようと思います。…