読書

てのひら怪談&怪談大賞

([か]2-2)てのひら怪談 己丑 (ポプラ文庫)作者: 加門七海,東雅夫,福澤徹三出版社/メーカー: ポプラ社発売日: 2009/06/10メディア: 文庫 クリック: 10回この商品を含むブログ (8件) を見る文庫版第二弾発売されました。拙作も三つ収録。 母体になってるビーケ…

「喜劇 眼の前旅館」より転載。 アンナ・カヴァン『氷』読了。何かうまくいえないよさのある小説だと思う。こういう抽象的というか、比喩に流れがちでユーモアのない文章は本来好みじゃないけど、それが美的なほうには向かわず、何か朦朧とした霧のような中…

ニックとグリマング

フィリップ・K・ディック『ニックとグリマング』を読了。ディックが残した唯一のジュブナイル作品とのことだが、フィリップ・K・ディックという作家のSF小説としてみればぶっ壊れてる部分にあらわれがちな魅力が、ファンタジーの枠の中でのびのびと発揮さ…

メレンゲで読む

十二月になっている。 今年驚いたのは近所の金木犀がいっせいに咲いたときだった。 「こないだ咲いたばかりだよな。二、三ヶ月くらい前?」「いや、こないだと思うのは錯覚で、ほんとは数日前なんじゃないか」「つまり数日前にそう思ったことを忘れてて、あ…

断片化日記

だいたいにおいて、自分の周りを壁で囲むと安心するので人は家に住むわけだが、まわりが何も見えないと不安だからせっかく囲んだ壁にわざわざ穴もあけるので、家には窓があるのである。 現代詩手帖を図書館に何冊か借りてくる。私は詩がてんでわからない。が…

斜面を感じない

物語というのは斜面です。それは始まりから終りに向けて下り続けています。部分的に平坦だったり上り坂が含まれていたとしても、全体の下る力にそれは飲み込まれ、乗り越えられてしまうほどの例外にとどまります。 この斜面のうえに小説は書かれます。すべて…

残雪の書き方

残雪『蒼老たる浮雲』(近藤直子訳)の訳者あとがきの中に「ある台湾の新聞(『中時晩報』一九八八年六月九日)のインタビュー記事」の一部が載っていてそれが残雪の具体的な執筆方法について触れていて興味深いだけでなく役に立ちそうなので引用しておく。 …

手加減なしの残雪

わたしの同僚の父親は火葬場の死体焼きだった。人生の大半を死体を焼いて過ごしてきたため、全身からそんなにおいがした。ある日、その家族はひそかにしめしあわせて、みんなで彼を置き去りにした。彼はひとり寂しく火葬場の墓地のはずれの小屋に住んでいた…

残雪「蒼老たる浮雲」より

老況(ラオコアン)は母親の怒りをひどく恐れていた。少しでも怒られると脅えてどうしようもなくなり、つらくてもう、生きていけないような気がした。その日の晩、老況(ラオコアン)は悪い夢を見た。寝ていたベッドをだれかが下から抜き取ってしまい、身体…

読んだ本

『隣之怪 蔵の中』木原浩勝 『映画の頭脳破壊』中原昌也 『怖い話はなぜモテる』平山夢明・稲川淳二 『恋とはどういうものかしら?』岡崎京子 『黄泥街』残雪 『隣之怪 蔵の中』を読んで、ここに収録されている怪談はそのまま口頭の語りに移しても(朗読とい…

下痢と雷

読んだ本。 『グチ文学 気に病む』いましろたかし 『「超」怖い話 怪歴』久田樹生 『ヨッパ谷への降下 自選ファンタジー傑作集』筒井康隆 『ゲゲゲの鬼太郎 吸血鬼エリート』水木しげる 『怪奇事件はなぜ起こるのか』小池壮彦 『本の森の狩人』筒井康隆 『魔…

画面は誰かの鼻の穴

最近読んだ本。 『赤いヤッケの男』安曇潤平 『余は如何にして服部ヒロシとなりしか』あせごのまん 『懲戒の部屋 自選ホラー傑作集1』筒井康隆 『人造人間キカイダー』(1)〜(4) 石ノ森章太郎 オリンピックを全然見てないのはテレビを見ないからで、ほ…

意志のように不調

読んだ本。 『プロレスへの遺言状』ユセフ・トルコ 『真・都市伝説』呪みちる他 『コリドラー〜廊下者〜』(1)(2) サガノヘルマー 『ゲゲゲの鬼太郎〜地獄流し』水木しげる 『映画監督に著作権はない』フリッツ・ラング 『ゴダール革命』蓮實重彦 ○ ●機械は正…

本の感想は基本書かない

読んだ本。 『極楽商売 聞き書き戦後性相史』下川耿史 『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』川上未映子 『人格障害をめぐる冒険』大泉実成 ● 私は飽きっぽいというか、興味をもった対象のどこに興味があったのかすぐ忘れるのだが、そのくせ腰が重…

世界の歪みの肯定

読んだ本。 『SLAVE OF LOVE』みうらじゅん 『ウェブ進化論』梅田望夫 『キリハラキリコ』紺野キリフキ 『波状言論S改』東浩紀編著 『「超」怖い話Μ』平山夢明編著 『文豪怪談傑作選 川端康成集 片腕』東雅夫編 『おぞましい二人』エドワード・ゴーリー 『…

お知らせ

ビーケーワン怪談大賞関係の新しい本が最近二冊出ています。 『てのひら怪談 百怪繚乱篇』 http://www.bk1.jp/product/03003531 http://www.amazon.co.jp/dp/4591103870 『てのひら怪談(文庫版)』 http://www.bk1.jp/product/03005130 http://www.amazon.c…

軽薄な奇想の体力

読んだ本。 『ぼくがぼくであること』山中恒 『東京大学「80年代地下文化論」講義』宮沢章夫 『夢のなか、いまも』宮崎勤 『現代小説の方法』中上健次 『むかでろりん』遠藤徹 『むかでろりん』は今まで読んだ遠藤徹の本でいちばんよかった。収録作のいくつ…

ある偶然

読んだ本。 『嗤う日本の「ナショナリズム」』北田暁大 『はれときどきぶた』矢玉四郎 『月蝕書簡』寺山修司 『萌える日本文学』堀越英美 『はたらくカッパ』逆柱いみり 『〈子ども〉のための哲学』永井均 『事件巡礼 彼らの地獄 我らの砂漠』朝倉喬司・中村…

シンクロしなくなるだろう

最近読んだ本。 『ドアの向こうの秘密』三田村信行 『UFOとポストモダン』木原善彦 『短歌の友人』穂村弘 『小川未明童話集』小川未明 本格的な歌論も当たり前のように読み物として普遍的な面白さに仕上げる穂村弘の“ストーリーテラー”としての体力は、一…

パノラマ島など

最近読んだ本。 『悪役レスラーは笑う』森達也 『おとうさんがいっぱい』三田村信行 『オオカミのゆめ ぼくのゆめ』三田村信行 『パノラマ島綺譚』丸尾末広 『ゲーム的リアリズムの誕生』東浩紀 以前ディック本(『フィリップ・K・ディック・リポート』)に…

地獄という日常

ちょっと前に大岡昇平の「野火」を読んだ。 地獄のような戦場の体験、という決まり文句でも語れるだろう肺病やみの一兵士の体験する死屍累々の世界が描かれるのだけど、その地獄にはまた、地獄の底までこんな瑣末な日常の景色がしつこくつきまとうのかよと思…

奇妙な人のバラエティ

最近読んだ本。 『弁頭屋』遠藤徹 『図説 フロイト―精神の考古学者』鈴木晶 『砂の降る教室』石川美南 『姉飼』遠藤徹 『パーソナリティ障害がわかる本』岡田尊司 『ハートに火をつけて! だれが消す』鈴木いづみ 『天使の病理』坂田三允 『サイコパスという…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その10回目)

ようやく十作目となります今回。開始からだいぶ時間かかってしまいましたが、これで最後です。 一作取り上げるごとに、何か自分の中で怪談や掌編小説について日頃から考えたいこと、について一つずつ考えてみる口実にしようと思っていたのです。が、どうにも…

恋愛小説ふいんき語り

批評には喋れる言葉で書いてあるのとそうじゃない(書き言葉でしか書けない)のとある。どっちがいい悪いではなく両方あるけど、喋れる言葉で書いてあってなおかついい批評、というのは私みたいに知的股下の足りない、高い敷居になるとまたぎ越せない不自由…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その9回目)

「橋を渡る」峯岸可弥 作者の意識が行き届いた、隅々までコントロールされた文体で書かれていると感じた作品です。 とくに目を惹くのは読点が使われてないことと、冒頭の一文だけが過去形で、残りはすべて現在形で書かれていることの二点ですが、特に後者は…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(番外編)

書くためにする引きこもり、略して書きこもり生活に一旦区切りがついたのでそろそろ残り2作のレビュー再開したいですが、あれは書くのにかなりエネルギー要るのでまだちょっと頭の中の様子見として番外編からやります。 怪談大賞ブログのほうで気になってた…

フロイト先生はいい先生

「不気味なもの」(岩波書店『フロイト全集17』所収)を読んだ。これはきっと訳文もいいんだと思うけど、最初から日本語で書かれた論文、というか文芸批評を読んでるみたいだった。ホフマンを分析してるからというわけでもない。態度とか手つきがすごく批評…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その8回目)

「問題教師」貫井輝 八百字という短さは読者より書き手にとっていっそう“短い”のではないか。なんとなくそう思うんですが、たとえば私は短歌もつくるけど、短歌とくらべて二十倍以上の字数があるから書くのが楽かというと、全然そうではない。むしろ短歌より…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その7回目)

「怖いビデオ」崩木十弐 私が怪談に求めてやまないのは、単に恐怖とか不思議といった言葉では片付けることのできない、落しどころのない不安定な感情を惹き起こされることです。 そのためか、何も怖いことや不思議なことが起きないのに怪談としか言いようの…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その6回目)

「使命」水棲モスマン この作品が巧いと思ったのは、レストランの看板絵の取り扱い方です。牛がナイフとフォークを握って、同類の肉を前に笑顔を浮かべる絵。鳴き声に由来する、何のひねりもないだじゃれ台詞を書き込まれた、キッチュな看板絵。この絵をわれ…