短歌日記

未だわれを産まざりし母老い続けみづからの死に間に合はぬ 産
独身の父聴きしてふレコードの溝ほどかれて途となるらむ
ポケットに死蝶集めし少女ゆゑ亡き姉に似ゆうすき眉毛の
墓場村字ものぐるひ夏たけて故郷捨てたる者らみな病む
あかつきの鉄路にわれを捨て来しを思い出のごと聞かせり母は
縊れ死の血筋にわれもありしかば薄日さす野を鳶めぐらしむ
鯨幕ひきずりて去る葬儀屋の眼帯の目にさわぐ麦の穂
家鳴りのやまざる日々をながらへて白髪は夜の沼へ注げり