2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

私は風邪

風邪のいいところは風邪薬が飲めるところだ。私は風邪薬が好きです。 風邪でなくても飲んでいたいほどだけど、高いのでそうは飲めない。たまに風邪引いたときだけ飲めるのが桃の缶詰みたいでいいのだ。桃の缶詰にときめかなくなった今となっては。 今日は本…

池から顔を出したのかと思うと、そうではない。 池に顔が浮かんでいるのだ。 顔のない男はそれを拾おうとして、手のひらが空を掴んでいる。 時々しぶきをあげるのは蛙である。

散歩

道から手の届きそうなところに、黒い環を浮かべている。星でなければ人の頭だろうと思う。数あるクレーターが防犯灯を浴びながら、いっとき、死相のかたちを揃えてみせる。

場所

飛び降りだった。 遺体が運び去られ、人型のチョーク痕が残った。 新旧ふたつの輪郭が、覆いかぶさるように重なる。 スカートの裾から四本の脚が覗くのを見た人がいる。

向日葵

墓地にはひょろ長いひまわりが咲いていた。時々おじぎするように揺れる。おじぎされているのは岸さんちの墓で、このところ毎年誰か亡くなるのだが、きまって暑い盛りである。

神様、うしろうしろ!

「小さな町」フィリップ・K・ディック(ハヤカワ文庫『まだ人間じゃない』所収)。 まだ読んでなかった短編を見つけたので読んだ。 言ってみればディック版「十九歳の地図」。 だけど十九歳でも地図でもなく、「四十三歳のミニチュア」であるところがどうし…

河原

お手玉が落ちていたので拾うと、石ころだった。捨てるとそれはお手玉に見えた。拾うとまた石ころだったので、川に放り込んだ。帰宅すると、寝たきりの祖母の髪が濡れていた。

ほんとなの

拾ったアニメ大音量で 見ながら噛むと苦い薬 ビールで胃に詰めてた ら急にあたし前世で同 じ事したの憶い出した ッて母にメール打つと 即効返事は神様からペ リカン便が来たみたい

木曜の朝

玄関に見覚えのない靴があり、左右の大きさが大人と子供のように違っている。

ある花の名

遺作が公開中の俳優についてこんな噂が流れた。撮影後俳優は海外で客死したのだが、滞在先のホテルが現地語で遺作のタイトルと同じ名前だった。遺体は部屋で発見されたのだ。

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たった今取り落としたように足もとにある花束。ガードレールに腰かけた女の子のぶらぶらさせてる靴、のかかとから白線にこぼされつつある水、水。だんだん色づいていく。

階段に踏み忘れてきた段がある気がして寝付けなかった。 いつのまにか頂上に立ち、ほかとは色の違うその部分を見おろしている。 みっしりそこにだけ生えた草が揺れている。

会社

窓に人の気配がないので取り壊すのかと思っていた。 十年がたち、ガラスは割れ荒れ果てた室内が覗くけど、今もときどき社名が入れ替わっている。 誰も出ない電話が鳴っている。

墓の隅

隅ノ墓という醜名の相撲取りがドアレンズを外から覗き込んでいる。「八卦よい見えるぞ、あばら骨に隙間あらば郵便受けになるなり、さああ残った」途中から裏声に変っていた。

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首のない胴体がつきまとう私は胴体のない首なので、舌で這って逃げる。

旅行者

味が思い出せぬまま金は払った。案外に安い。 路地から見上げれば屋号に「肘」を意味する名詞のみ辛うじて読める。 砂埃が吹きつけると背広の右袖が旗のようにゆらりと揺れた。