2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

クイズマスター復活 解答者席にならんだ顔はどれも青白く生気がなかった。今週の第一問目が読み上げられても、誰ひとりボタンを押さないどころか身じろぎすらしないので、初老の司会者はとまどいと苛立ちの混じった目でスタッフに何かを訴えかけている。 四…

電話 恋人を寝取られた女がテレビを消したことも忘れ、放心した顔のうつっている画面を眺めている。何時間も同じ姿勢で。 画面の中で電話が鳴ったので、テレビにうつっている女が立ち上がって受話器を取った。 「はい。いいえ違います」 聞いたこともないへ…

ママは旅行好き 太陽の裏側にまわると小さな巣穴が無数にあいてそこから刑事が出入りしていた。 刑事の鼻はどれも太陽から垂れた白い糸に繋がれていて、遠ざかるほど鼻の穴からずるずると糸は伸びていく。まるで彼ら自身が太陽という巨大な凧の糸巻きになっ…

スイッチ 髪からうさぎの耳のはえた子供が数人、窓の外にならんで立っている。人間の言葉を理解しない。あるいは、言葉の存在そのものを知らないから、出て行けと私が門のほうを指さしても指先だけをじっと見ている。私の指はささくれが多くて旱魃の地面みた…

海の使者 首を取替え式にしたばかりの校長が、朝礼台で朝陽を浴びている。生徒は夏休みからこちら誰も帰ってこないので、がらんとした校庭でさえずるのはスズメだけ。ほかは何もない。背後に建つ校舎の窓という窓はカーテンが閉まり、校長の背中を映している…

耳をすませる ラジオは何も考えない。考えないで喋る。それがラジオだから。考えるのはぼく。考えても喋らない。それがぼくだから。ラジオを聞く。ぼくの考えをラジオで。この夏のぼくの考えを。喋る。ラジオが喋る。知る。ぼくの考えを。この夏のラジオで。…

当選 くちびるが「ふ」のかたちになった女の子が流しの下からあらわれてぼくに銃をつきつけた。 「あなたが最後に踏んづけたアリが当たりくじだったのよ」女の子はそう云って銃をもたないほうの手で髪をかき上げた。「だから連行するわね。拒否する権利はな…

髪 玄関に髪の毛が垂れ下がり、そのすきまから目が覗いている。ここは誰も来たがらない家だ。ドアをあけっぱなしで外出しても泥棒が入ることもない。友人を招んでもその日は用事があると断るし、しつこく誘うと音信普通になる。玄関に垂れ下がっている髪の毛…

短歌日記

菊の環で埋め尽くされた晴れた日にヘリポートから盗む白線

tanka

蛇 東京タワーにからみついた階段が少しほどけて、垂れ下がった先っぽが地面に叩きつけられる。バラバラに分解した踏み板がはねかえって走行中の車に接触、車は傷ついてガソリン臭い血を流している。 ぼくたちは遥か上の階段からそれを見おろす。ずるずると…