玄関に髪の毛が垂れ下がり、そのすきまから目が覗いている。ここは誰も来たがらない家だ。ドアをあけっぱなしで外出しても泥棒が入ることもない。友人を招んでもその日は用事があると断るし、しつこく誘うと音信普通になる。玄関に垂れ下がっている髪の毛と、そこから覗いている血走った目がいやでみんな敬遠するのだ。
 でもそれは私と家に対して失礼な言い草である。と、誰もが思っているからはっきり理由を口にしない。あいまいに笑ってごまかしながら、とにかくうちに来なくて済むよう知恵を絞っている。最近私はパーティーがしたくてたまらず、ごちそうの山にかこまれて何年も待ちぼうけを食わされながらつぎつぎと腐っていく料理を作り直し、髪の毛越しに外の世界に向かって鼻歌を流している。鼻歌はその都度作曲され、二度と同じメロディーが流れることはない。すべての曲目は頭の中でなく家の空気に保存されている。私の家は鼻歌の倉庫と化しているのだ。