2005-11-01から1ヶ月間の記事一覧

地獄の日

近所の図書館のヤングアダルト・コーナーに芸能人のサイン色紙が三枚飾ってあることにこないだ気づいた。(コバルト文庫の『ケータイ・プチポエム』という本を借りに行ったのだ。) 少年隊のニッキとヒガシ、あとなぜかカッちゃんのはなくってもう一枚は滝川…

不潔な女からの手紙 運ばれていくあいだ、口の中で自分が何ごとか呟くのを感じていた。内容はまるで聞き取れなかった。内容などなかったのかもしれない。内容のあることを喋っている意識などなかった。頭はからっぽで頭蓋の壁のひびわれから星の浮かぶ黒い空…

女児

広島の小一女児殺害(段ボール梱包)事件で県警が情報提供をよびかけるために公開した、下校当時の被害者の服装を示すイラストがそこはかとなく心霊的(たとえば霊能者が心霊スポットなどで霊視した死者の姿をスケッチしたものを思わせる)であることの不安…

顔 耳をすませると、耳をすませる音だけがきこえる。誰もいないのではない。耳をすませる者だけしかいないのだ。踏切越しに見合わされる、名のない顔の群れのように。 ナイフ 夜に寝室にいる。窓ががたがた震えるほど闇が押しつけている。ガラスに映る髪の毛…

廃人の仕事 片足をひきずりながら歩く女には意識がなく、ひきずられているほうの足だけが今では女に残された唯一のものである。あとのすべては天上からふりそそぐ見えない糸の操作が女の意志を肩代わりしている。 女は時間をかけてたどりついた玩具売場のレ…

排水口 煙草のヤニで汚れたスクリーンが、演技や特殊メイクではない本当に殺害されたばかりの若い男を淡々と映し出している。そのとき私は直前に駆け込んだトイレで、ひとりで用を足していた。トイレの蛍光灯は切れ掛かっており、頭上で点滅するせいで私の前…

ボール 新宿行きのブランコが人身事故で朝から止まっている。家の中では肌寒いくらいだが、庭に出ると日なたは袖をまくって丁度いい暖かさなので私は、玄関の鍵をかけ忘れたまま散歩に出かけた。公園に行きたいと思ったのだ。坂の途中にある公園は坂道と同じ…

河原 犬が犬の眼で迷路の入口を見すえている。脱がれていくシャツのように裏返りながら犬の頭に吸い込まれていく通路が、いわば迷路の外側に属する空間ごと(巻き込みながら)畜生の世界に移築される件について。私はとくに何も考えたりそれ以前に気づくこと…

ドールハウスの工員 たいていの天井に頭をこすりつけてしまう、まれに見る大男であるあいつの唯一の趣味は人形遊びなのだ。老若男女、容姿や素性のさまざまな人形があいつの古ぼけたおもちゃ箱に詰め込まれているが、中でもお気に入りは外科医のボビーという…

怪談と近況

ビーケーワン怪談大賞応募作のうち、「歌舞伎」以外で出来を自分で気に入ってる話をこちらにも(怪談大賞ブログでは全応募作が今も読めるようです)貼りつけておきます。自分用保存版。あの短期間によく五本も(没のを含めるとそれ以上)書いたもので、ああ…

短歌日記

今年の題詠マラソン投稿歌からの自選二十首。 タイトルは…とりあえずなしです。無題。 砂利道で森をめざすと馬がいて馬には馬の恋人がいる 爆弾と大和撫子はこばれてゆく首都高の出口すべてに 自動ドアって書いてるだけのただのドア閉めにいく家族をぬけだし…

普通の貧乏な日々。mixi日記より転載。

某月某日 今しがたチキンラーメンを食べた。 晩ご飯が貧乏ナポリタン(スパゲティのケチャップ炒め。具はキャベツだけ)だったせいかお腹が減ってしまい、なけなしの備蓄食糧に手をつけてしまったわけです。 残り一個になった。 チキンラーメンはなかなかい…

潜水夫 私には手の届かないものが、お前のふところに転がり込む。目を丸くして、大声をあげて、大げさな身振りでお前はそれを見せにくるだろう。きいちごのジャムで汚れた皿にひとすじの髪の毛。壁に掛けられた潜水服を、私はそこにいる誰かのように眺める。…