短歌日記

今年の題詠マラソン投稿歌からの自選二十首。
タイトルは…とりあえずなしです。無題。




砂利道で森をめざすと馬がいて馬には馬の恋人がいる
爆弾と大和撫子はこばれてゆく首都高の出口すべてに
自動ドアって書いてるだけのただのドア閉めにいく家族をぬけだして
松葉杖ごと手をふれば屋上の人にも見えてゆびぶえが降る
夕方に紫蘇をつみとるはなうたがきこえる距離にふと誰かいる
いるはずのない草むらでおとうとに呼ばれる腹話術師の声で
目線からはみだしている泣きぼくろ('82.3.10)
スカートのひざがいくつも降りてくる鬼火がたまるように歩道に
ひとりでは歩けない影ひきずって階段くだりはじめる雨の
ひとり占めできない犬が鳴らす鼻 晴れてないのにあかるい庭で
手裏剣に似た生き物が宇宙から降ってきたわけではなく夏よ
信号で曲がるところを間違えた団地の先に団地がつづく
きみの抱く消火器は空 ねがえりをページをめくるようにつづける
額縁をぬけだすように手をのばす「雨じゃないみたい」とつぶやきながら
もういない姉の指紋がいっぱいのチョコレートここは目かくしのなか
分けて書く苗字と名前くちびるに上下があるとされる私に
降伏をあらわす雨のベランダで洗濯物が三日前より
コアラの掌をおそれるぼくが四次元という言葉から聴きとるさむけ
(運転を見合わせています)散らかったスーツの中に人がいるのだ
夏草の斜面に櫛を入れる手をみている麦わらに穴あけて