2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

小説は小説家が書くもの

小説を書いていていつも苦痛なのは、自分の書いているものが小説だとはどこか致命的なまでに信じきれないまま、信じたふりをして書き続けなければならないというところだ。 これは小説と呼ぶにはボーダー上にあるようなものを私が書いている(そうでありたい…

残雪の書き方

残雪『蒼老たる浮雲』(近藤直子訳)の訳者あとがきの中に「ある台湾の新聞(『中時晩報』一九八八年六月九日)のインタビュー記事」の一部が載っていてそれが残雪の具体的な執筆方法について触れていて興味深いだけでなく役に立ちそうなので引用しておく。 …

脳内都民として

あの人の脳内山谷にはあるのですから。 われわれ都民は脳内知事が現実の首都の知事も兼ねるという未曾有のスペクタクルをこそ味わうべきなのです。 現実の都民は、脳内知事の脳内都民にも自動的に二重登録されています。 知事の脳内鉄道である大江戸線は、現…

手加減なしの残雪

わたしの同僚の父親は火葬場の死体焼きだった。人生の大半を死体を焼いて過ごしてきたため、全身からそんなにおいがした。ある日、その家族はひそかにしめしあわせて、みんなで彼を置き去りにした。彼はひとり寂しく火葬場の墓地のはずれの小屋に住んでいた…

虫の小説

右肩から右ひじを経て右手中指にかけてが腱鞘炎的というか神経痛的に痛い。朝起きるたびにそれが酷かったり軽かったりする。そんなことはべつにどうでもよく、便所の床が最近べこべこして踏み抜きそうになってることが気がかりだが、腐ってるんだろうか。私…

人に伝わる言葉を話してはいけないこと

自分だけの崖っぷちに立つには「私だけが崖っぷちに立っている」という自覚とともに内陸を眺めるような態度は妨げになるのであって、ほかの「自分だけの崖っぷち」に立っている人々と個別に出会うことだけが私を私だけの崖っぷちに案内するだろう。 あなたの…

残雪「蒼老たる浮雲」より

老況(ラオコアン)は母親の怒りをひどく恐れていた。少しでも怒られると脅えてどうしようもなくなり、つらくてもう、生きていけないような気がした。その日の晩、老況(ラオコアン)は悪い夢を見た。寝ていたベッドをだれかが下から抜き取ってしまい、身体…