人に伝わる言葉を話してはいけないこと

自分だけの崖っぷちに立つには「私だけが崖っぷちに立っている」という自覚とともに内陸を眺めるような態度は妨げになるのであって、ほかの「自分だけの崖っぷち」に立っている人々と個別に出会うことだけが私を私だけの崖っぷちに案内するだろう。
あなたの崖っぷちは私のそれと少しも似ていないことでのみたしかに崖っぷちに間違いなく、あなたが強い風に晒されてちょっと目を離した隙に海の藻屑になっているかもしれないことが、そこをあなた一人の場所にしている条件である。
あなたは初めからそこにいて、そこを離れる方法を知らないのかもしれない。私はほんのまぐれでそこにたどり着くことがあり、ふたたびそこに迷い込むことのできない人間だが、私には私の離れられない場所がある。ここがなんという陸地となんという海との境界であるか、言い当ててくれるかもしれない人の踵の踏み崩す土の音に、私は遺言のように耳をすませている。