脳内都民として

あの人の脳内山谷にはあるのですから。
われわれ都民は脳内知事が現実の首都の知事も兼ねるという未曾有のスペクタクルをこそ味わうべきなのです。
現実の都民は、脳内知事の脳内都民にも自動的に二重登録されています。
知事の脳内鉄道である大江戸線は、現実と妄想の東京を夢うつつで結ぶ地の底のクラインの壷です。
そうとは知らぬ間にわれわれは住民票はおろか、なけなしの生身をリニアモーターで都知事の脳内へ移送されてきたのです。
だからどんな報道が為されようと自分の足で出向けば本当に山谷には200円のドヤが山のように存在しているはずです。
歌舞伎町は葉山の海のように血染みひとつなくクリーンだしオリンピックの聖火も神風に吹かれて東京にとんで来ることでしょう。
そのかわり脳内知事の脳そのものの寿命が尽きるとともに、こっちの東京は地上波テレビ放送のように跡形もなく消えてなくなることはしかたないのです。それまでに出口みつけとかないと我々も宇宙の塵ですが、すでに脳内一千二百万エキストラに登録された我々はエンドロールに「東京都のみなさんたち」という一行にまとめられて流れ去るのをいまわの際に眺めてもらえるしあわせに今から満面の笑みで感謝しておくのが身の丈というものです。