廃人の仕事

 片足をひきずりながら歩く女には意識がなく、ひきずられているほうの足だけが今では女に残された唯一のものである。あとのすべては天上からふりそそぐ見えない糸の操作が女の意志を肩代わりしている。
 女は時間をかけてたどりついた玩具売場のレジで財布を取り出す。遅効性の毒物をしみこませた紙幣が店員の手を経てレジに収められ、つぎに手に取る者があらわれるのをおとなしくそこで待っている。女の荒んだ長い髪にからみつくしおれた花びらや枯れ葉や虫の死骸。それらを時おり口に運ぶことが意識のない女を生かし続ける食事だった。買ったばかりの「おしゃべり宇宙ウサギさん」を箱ごと屑かごに放り込むと、女の足はつぎに蓋をあけるべき場所へと地獄の釜をひきずりながら去っていく。
 もちろんトイレに行くことなどない意識のない女が垂れ流す小便の痕は、床に黄色い水をなめくじが這った痕のように張るのでぼくらは最後まで彼女を見失うことなどなかったのだ。