河原

 犬が犬の眼で迷路の入口を見すえている。脱がれていくシャツのように裏返りながら犬の頭に吸い込まれていく通路が、いわば迷路の外側に属する空間ごと(巻き込みながら)畜生の世界に移築される件について。私はとくに何も考えたりそれ以前に気づくことさえなく犬を、暮れかけた河原で遊ばせている。犬は興奮して石ころだらけの地面を走り回り、狂ったように私の投げた木の枝を追いかけて齧りつく。歯型がこの犬の喋れない言葉の代わりにさわやかな主張を残した。すえた匂いの混じる川の風に飼い主の髪が乱れるのを見上げながら、しっぽはある狭い空間だけを磨き上げている。