スイッチ

 髪からうさぎの耳のはえた子供が数人、窓の外にならんで立っている。人間の言葉を理解しない。あるいは、言葉の存在そのものを知らないから、出て行けと私が門のほうを指さしても指先だけをじっと見ている。私の指はささくれが多くて旱魃の地面みたい。
 子供たちの裸の胸にそれぞれ数字が書かれている。6番の女の子が4番の男の子の頭を棒切れで叩き、男の子はラッパのような声を上げて庭をぐるぐる走り回る。走りながら放尿によって地面にメッセージが記されていく。それは彼や彼女自身の言葉ではない。どこか別な惑星にいるプレイヤーによって送り出された言葉。かれらはただの筆記具にすぎないのだ。私はメッセージを読みながら、どんな答えを返すべきか考える。子供たちは動きを止め、私の反応を待っている。うさぎの耳がぴくぴく痙攣してどんな声も聞き逃すまいと構えている。
 11番の女の子が私の前に歩み出る。地面と床の落差、それと背丈の差によって私はひざまずかれている気分を味わう。耳の先端が胸をくすぐる。やわらかそうな白い毛に覆われた耳。思わずポケットからライターを取り出し火をつけたくなる。上目遣いに煙を見ている女の子。みるまに耳を灰にかえていく炎。
 いやな匂いをたてながら女の子は上から燃えていく。燃えたところから順に丸薬のような粒になって地面に散らばる彼女。ほかの子供に次々と火をつけると、意外にも悲しい気持ちがわきおこってくる。いまや丸薬に覆われた庭を隣家の奥さんが窓から見おろす。私は愛想よく笑っておじぎをするが、奥さんは無表情。無表情な奥さんの似顔絵がガラスに描いてあるだけなのだ。このとき私の中に芽生えた感情に脚がはえて立ち入り禁止の階段をかけのぼってゆく。この世界のいちばん高いところから猛毒入りのキャンディーをばら撒くために。誰も見てないテレビのスイッチを切るのはいつも、夜更かしの私の役目なのだから。