クイズマスター復活

 解答者席にならんだ顔はどれも青白く生気がなかった。今週の第一問目が読み上げられても、誰ひとりボタンを押さないどころか身じろぎすらしないので、初老の司会者はとまどいと苛立ちの混じった目でスタッフに何かを訴えかけている。
 四人の解答者は全員があきらかに死んでいた。それも収録中に急死したのではなく、すでに死亡している人間が解答者としてスタジオに運ばれてきたのだ。おかげで独特の臭気が辺りにただよい、観覧席の老若男女(はプロダクションが用意したエキストラなのでむやみに騒ぎ立てたりしないのだが)も不快感をかくすのに必死の笑顔をつくろっている。あるいは何の臭いか分からず意外と何も気にしてないのかもしれない。
 三問目にいたっても誰ひとり解答する意志を見せないので、司会者は憮然とした表情でしだいに投げやりな進行を始めた。十年以上つづいている番組で初めてのケースである。ナレーションの女声も合成された声のように無機質になり、画面に解答者の顔が映ると額や口にそれぞれ蝿がたかっている。私はビールの缶を握りつぶして台所へ立った。週末のささやかな楽しみだった人気クイズ番組が、招かれざる者たちの登場により台無しにされたことを私は苦々しく思った。テレビに出演していることの興奮が感じられない無名人の顔など見たくはないのだ。それなら芸能人や有名スポーツ選手で充分ではないか。あたらしい缶のふたをあけながら戻ると番組はなぜか中断しており、死んでいたはずの解答者たちが席から立ち上がって司会者やスタッフに襲いかかっていた。まるでそういう映画の撮影が抜き打ちで開始されたかのように。
 初老の司会者が耳や喉を齧りとられ、荷物のように床にくずれおちたがその声だけは朗々とテレビから流れてくる。死人の仲間入りを果たした司会者の声は死後の世界の素晴らしさを声高に訴えかけていた。
 死亡してしまえば生前の番組の進行など一切どうでもいいのだろう。無責任な話ではあるが。