神様、うしろうしろ!

「小さな町」フィリップ・K・ディック(ハヤカワ文庫『まだ人間じゃない』所収)。
まだ読んでなかった短編を見つけたので読んだ。
言ってみればディック版「十九歳の地図」。
だけど十九歳でも地図でもなく、「四十三歳のミニチュア」であるところがどうしようもなくディックでありすぎる。
ディックの小説がミニチュア遊び、人形遊びであるゆえんは、ディック自身が模型を覗き込む顔や操作する手つきが、ミニチュア世界の人形ドラマの余白に同時に書き込まれてしまっているところだ。
意識的にそれを書き込んでみせるという前衛っぽい態度でなく、あくまでうっかりフレームに入ってしまったスタッフみたいに、無意識なうしろ頭が写り込んでるところがポイント。
もちろんそれだからディックは素晴らしいのだ。
そして主人公の身に起きた事態を解説する医者(妻の浮気相手)の超理論もすばらしい。
悪夢と至福がアイロニー抜きで両立してしまっているすごい世界が、こんなしょぼい小説の中に実現してしまっているところがディックのマジック(あるいは目の錯覚)だと思う。