090615

 胸まであいたいやらしい靴を履きたがる女の子と、蝿がたかったキャンディーみたいな憂鬱持ちの男の子なら、どっちが大統領にふさわしい?
 一日それで頭がいっぱいだったお蔭で何度もクラクションで起こされ、事務所に戻ると、バンパーが無疵で血痕ひとつ見あたらないのが奇妙なくらい眩暈。
 エレベーターの電源まで落とされた雑居ビルにぽっかり浮かぶ夜光性の床。たどり着く。机に籤チョコが散らばっている。いないあいだに配られたおやつを口に入れ、それにしても頭がまだぼうっとしてる。リン子は静まり返ったトイレの鏡にこうつぶやいた。鏡よ鏡、大統領はどのみち「大統領日誌」に今日の天気を書き込むくらいしか仕事がないのだし、誰がなってもいいと思わない? あたしとか。けれどチョコの精はリン子そっくりの顔、胸のぱっくりあいたいやらしい靴の女の子を微笑ませたまま。
 けたたましいクラクションで起こされ、リン子は車を急発進させた。また夢を見てた。なんだか次あたりで、大統領になれそうなお話。うっとりして、遮断機が下りているのに気づくのが遅れたらしい。虎縞の棒を弾き飛ばし、頬に迫る振動に振り返る。
 男の癖にあんな悲鳴? なんだか、本気で勝てそうな。