sketch

手紙を書いてしまったので、出さなければならなくなった。封筒が裏返っていると気づかずに封をしたから、宛先も切手も中に隠れてしまっている。しかたがないから町中を歩き回り、ようやくひとつだけ見つけた裏返しのポストに投函した。 家に帰ってきてから不…

私たちは相談の途中でどちらも少しずつ長い眠りを眠った。すると眠りの中を建設中の高速道路の橋脚がよぎっている。見通しのいい沼地に左右の先はともに果てるところが見えないが、私の小舟は橋脚の隙間を流されてしだいに遠ざかっていくので、あれは眠りの…

心と道路ではどちらが長いか?ということをたしかめるために心の道路を永久に歩き続ける者と、道路の心を永久に抱き続ける者がいて、両者を同一人物だと決めつける証拠がない。

耳には心があり、口にある心とそれが重なっているように見える。でも耳から入ってきたものが口から出ていくことはない。鳥の声を聞いてそれを真似ることは、心が一つである証拠にはならない。となりあう心が震えてみせただけでも、それほど似ていないその声…

「わたしは天国に雇われている」 わたしのかたる言葉は天国の意志を地上で響かせるための訳語だ。 わたしの空腹は天国に空きが出ていることを体を使って示している。 地獄には定員がなく、だからたいていの者は地獄に落ちていくのだが、天国に空きが出ればわ…

090819 ひざに載せたまま自動車学校になりそこねている交差点に夏草が繁る。向こう側が見えない。そう文句を垂れながら、ねじがゆるんだように立ち上がる私の影。影の喉元に深々と埋まるナイフの柄の浮き彫りを、誰かのゆびが離れることさえ寂しい夏がある。…

071216 港の見える丘で待ち合わせたのに、あなたが現れたのは煮納豆の煮えるおっ母だった。 目がさめるまではそれでいいと疑わなかった。 目がさめたらそれはなにもかも許しがたいことに変わっている。 私は煮納豆の煮えるおっ母公園の中心であなたを立って…

071129 道路が行き止まりだったから、新聞を読みはじめた。 行き止まりの先は有刺鉄線で、その先は巨人軍のキャンプだ。 ピラミッドのようなテントの群れ。 山火事のような焚き火。 読むのはもちろん読売新聞。 日本の未来への指針となるすばらしい意見が載…

071203 知り合ったときAV女優を辞めたがってたKちゃんは、今ではれっきとした殺し屋だ。使うのは専ら青龍刀で夜道で背後からいきなり襲うのが得意技。だが最近になって私は、実はKちゃんは誰からも殺しの依頼を受けてないのらしいのを知った。どこからも頼…

071209 髪の毛座、がどこにあるか知らないことがさいわいなのだ。 宇宙はいつもぐるぐる回っているから、気になる方角もぐるぐる変わり続ける。 宇宙酔いの世界へようこそという話になる。 髪の毛の下にある顔あたりが言いそうなことだ。

071201 他人のために何もしたくない。と思いながら寝ていると、夢に他人が現れた。他人の頭はくずれかけた積木のようだった。私は被害にあわぬよう道の端によけて歩いた。 それが気に入らなかったのか、他人は血相を変え私を追ってくる。 左右に頭を、ぶるん…

071126 実験用の猿だから安く売っていた。ペット用の半額以下だ。子供服を着せて連れ歩くと私は頭のおかしい女だと思われる。それは私が女装してるせいでもある。でもこれもひとつの実験だ。

071123 すくすく狂う。出だしを忘れた音楽みたいに、山奥の道なき道のほうへふれていく。林道がけもの道に、けもの以前の道にさかのぼり、人間の頭くらいある肌色のきのこに腰かけてしばらく休憩。 拳銃の銃口がこちらを向いたまま生活する。隠しカメラのよ…

071123_2 誤飲した硬貨が十万円に達したら手術を受けることになっている。という夢を子供の頃から見つづける。両親は見たことのない二人組みで、漫才師の夫婦に似ている。私がかれらに受け答えする関西弁は不自然だ。私はこの人たちの子供ではない。 私が気…

090615 胸まであいたいやらしい靴を履きたがる女の子と、蝿がたかったキャンディーみたいな憂鬱持ちの男の子なら、どっちが大統領にふさわしい? 一日それで頭がいっぱいだったお蔭で何度もクラクションで起こされ、事務所に戻ると、バンパーが無疵で血痕ひ…

090614 出口のところであたまにのせる係の人がトイレに行っていたから、私だけずっと帽子がなかった。

090530 展覧会はまだ始まっていないから、私は象に乗ることにした。階段があって矢印のついた看板が手すりに取り付けてある。「←アフリカ象」と黄色いペンキの文字。私は踏むたびにきしむ板を順番に踏んでのぼっていった。景色がひらけて林のむこうに町が見…

090321 鳥を帽子のようにかぶることがその通りでは流行った。耐えられないにおいになるまでかぶり続けたあと、公園の地面に埋めにくる人々の列がある。だが不思議な病気がきっかり通りの長さだけ流行り、しだいに公園は住人の墓地に塗り替えられていくのだっ…