小説ノート

 私が読んでおぼえているものでは「瓶詰地獄」「ドグラ・マグラ」もそうだったけど、夢野久作が〈兄妹の恋愛〉をくり返し書いた作家だということに、これを読んでやっと気がついた。生涯のテーマというかオブセッションというか、そういうものだったのか。
 口語的な饒舌体であると同時に、雑種的で、どんなものでも呑み込んでいく不定形の文体だと思う。文体は強烈にあるんだけど不定形、という言い方は矛盾しているようだが、たしかにそういう文章。あと口語といっても面と向かって個人的に話されるような言葉ではなく、芝居がかっていて舞台上で上演されるような口語、ということになるんだろうか。小声ではなく大声、でもある。声を張りあげた、身ぶり手ぶりもまじえた狂気の講演、という感じ。
 久作の小説は自分が書くときの参考にはならない、とずっと思い込んでいたけど、ここ数日で考えが変わった。私にとって物語的なイメージの疑似故郷である丸尾末広佐伯俊男寺山修司などの世界とも久作はもともと相性がいいのだし、これからは大いに参考にしたい。