恐怖のセオリー

暗闇のおそろしさと、陰影のおそろしさは微妙に違うものだ。暗闇は情報を奪い、陰影は情報を付け加える。暗闇は「幽霊など存在しない」この世界の常識を覆い隠すことで、幽霊が存在するかもしれない世界をわれわれに幻視させる。それに対し陰影は「幽霊など存在しない」はずのこの世界に直接、「幽霊」のありえない(?)可能性をぺたりと貼りつけてくる。暗闇は引き算であり、陰影は負数の足し算である。恐怖表現において、読者や観客をいきなり暗闇に突き落とすことは(特殊な演劇やアトラクション以外では)おそらく不可能なので、的確な位置に陰影を描く技術が恐怖表現の基本となるだろう。