シラフになる

 というわけで小説を「書いてもそのこと隠せない人」である私は、文学賞にもたびたび応募してしまうほど「隠せない人」なのだが、応募作を〆切り直前やすでに原稿を投函したあとで読み返しながら、私は毎回飽きもせず同じように新鮮に愕然とするのである。
 こんなはずじゃなかったのに! こんなものを私は書いた覚えはない! だが書いたのだし、こんなものしか書いていないのだ驚くべきことに。私は、さっきまで自分がいい気になって書いているつもりになっていた小説と、今じっさいに読まれてしまった小説(のようなもの)との笑えないほどのギャップにおののき、絶望的になるのである。
 それはほんとうに魔法がとけたように一転してみすぼらしい正体をあらわす。ある種の魔法にかかったような酔っぱらった状態でなければ書き続けられないのだが、シラフにもどらなければ書いたものの正しい自己評価は下せない。この酔いからシラフへという移行がかなりくせもので、自分ではとっくに醒めているつもりでじつはべろんべろんだったりするのである。でもいつか必ず正気にかえるときは来る。つまり絶望につき落とされるときが。