『秋刀魚の味』小津安二郎

 画面そのもののフレームのなかに、さらに複雑で立体的なフレームとして日本家屋をはじめとする日本的な視界の悪い生活空間があって、その二重のフレームのなかに俳優たちの奇妙に段取り的なうごきが納められた芝居空間は機械じかけでカタカタうごく長篇人形劇(というものがあったとして)の実写版みたいなことになっている。
 不自然きわまりない構図(奥にいる人物との遠近感が狂い笠智衆が巨大化した!)やカットつなぎがこのただでさえ迷路化した芝居空間をさらに迷路化の悪化した映画空間にしてしまう小津映画のなかでも、この映画はとくに迷路化の悪化度が深刻な事態じゃないかと感じた。なんでだろう。