プレーンソング

 保坂和志『プレーンソング』読了。劇的なことが何も起きなくても小説にはなる、それどころか何も起きないからこそ小説らしい小説になるのだという考えは、何となくどこかで読んだり聞いたりしたことがある気がするし、自分でもちょくちょく考えたりしていたけれど、この小説を読むとそれがまぎれもない事実だということが具体的に目の前につきつけられてくる。
 劇的だったら小説ではないということはないが、劇的であることと小説的であることはまったくべつで、そのことは劇的な小説を読んでいるとよくわからないが、まったく劇的ではないこういう小説を読むとよく見えてくる。それはこの作品が単に劇的でないだけじゃなく、すごく小説的な小説であるということだし、劇的な要素を排除してもただ空虚感をただよわすのではなく、そのぶん小説がぎっしり充実して詰まっているので「これが小説だ」というのがすごくわかりやすく納得できる感じがする。