またたき

 私が目をとじているあいだのみ目をあけている人がいる。彼と私で世界は正確に余すところなく、重なるところなく分け合われている。彼のまぶたは私の瞳であり、彼の瞳が私のまぶたになる。私たちはつねに同じ場所にいる。私は彼に会ったことがない。

無題

 信号が黒に変わったので、交差点をいっせいに這いずっていく黒髪。

映像

 消えたテレビ画面にうつる部屋のようすも番組の一部である。隠蔽されている視聴率のからくり。「放送されたものだけが番組ではない。」

プレイバック

 人間の足音で歩くのは人間だけではない。たとえば誰かに後をつけられている、と恋人から深夜電話があった場合。内容を録音して後日聞きなおしてみると、人間の足音(恋人のものだ)に混じってかすかに別の足音がする。人間のように聞こえる。だが致命傷は刃物ではなく、何らかの生き物に噛まれた傷であった。その動物の歯は鰐に似ている。この検視結果が示す事実はただひとつのみ。