花嫁は奈落の底に

 巨大なピンが屋根の上に載っているからといってボウリング場ではなかった。かつてそうだったとはいえ、今は違う。今はここは若者たちがスマートなフォームで得点を競う健全な娯楽の空間ではない。ピンの倒れる軽快な響きが建物のあちこちではじけていたりはしない。
 収容所である。降って湧いたような収容所だ。老若男女問わずといいたいところだが、ざっと見たところ女ばかりだ。所長がレズビアンだからそうなのか、食糧不足の折、男はみんな食われちまったのか定かではない。たしかにここには餌が足りない。お嬢さん方は頬骨が目立って美貌が台無しだ。彼女がしなびたドライフルーツと化す前に、ぼくらは花嫁奪還のための擬似ボウリング大会を主催する。もちろんあらゆるレーンは都市の比喩であり、ピンは衛兵をにわかに象徴する。
 だが花嫁は、正確には花嫁候補は、ぼくらの突入を待ちわびる囚われの白い蝶ではなく、女所長と鋼鉄のディルドーで結ばれた禁断のひめゆり親衛隊かもしれない。なんかドキドキしてきたぞ!っとぼくらのうち脳に白蟻の巣があいた連中が騒ぎ出す。落ち着け。若者の娯楽の王道はいつもボウリングだ。たとえすべてのボウリング場に火の手が上がろうと、あらゆるピンが首を刎ねたペンギンに差し替えられようと、ストライクが出た瞬間の爽快感に敵うものはどこにもない。
 花婿衣装を脱ぎ捨てた男性諸君、今すぐ近くのボウリング場へと駆けつけなさい。
 どんな美貌も醜形も頭蓋骨上、たった数mmのできごとに過ぎないのだから。