ワーム

 迷路はひろがり続けた。一国の領土をこえて拡大した迷路は他国のそれとつながり、国を飲み込んで巨大化しながらやがて大地を覆い尽くす。さらに海底を這いずるようにひろがったすえ地表を征服したのちは地底を掘り進め、虫が林檎を食い荒らすように惑星の内側深くまでが残らず迷路に蝕まれた。
 今この一個の迷路はあらたなフロンティアを求めてうずうずしている。間近をかすめる彗星などあればたちまち餌食となるだろう。

女の子には友だちが必要

 魂なんて只であげる。女の子たちのしかばねを重ねたつめたいベッドで、夜明けまでには眠りにつくからっぽな王子の寝息。あいつが左胸をハート型にくりぬかれた穴から、向こう側の景色を覗かせた単なるトンネルであることを世間に知らしめてくれたらそれでいい。そしたら魂なんて好きにしていいから。噛みちぎっても啜っても舐めても握り潰しても。
 罪のない下心のために生き血を抜かれて表情のこわれた、あの脈なしの可哀想な女の子たちがぜんぶ腐れきってしまう前に。何人死んだか数えるのも無理なくらいからっぽな王子の鼓膜が目覚まし時計の雄叫びでふるえる前に。
 世界をもうじき手に入れるはずのあいつの心臓が、トンネル越しに空で滲んだ今夜の半月の見間違いだということをどうか人類のみんなへ言いふらして欲しい。
 わたしは彼女らの友だちになりたかった一人として、ここに復讐を宣言する。

終点からの回復

 ピクニックは時計と反対回りに丘をのぼりつめたところで唐突に終る。その場でぼくらは解散した、手と足と胴と首とその他さまざまの部分とに別れて。それぞれの生まれた覚えのある世界へ。