ゴミ屋敷

 私は何もかもすぐ忘れてしまう頭の持ち主であるが、それは一旦手に入れたものを確実に手放すからなのか。それとも、そもそも手に入れ損なっているのかが、わからない。どっちなのかが。
 目の前にあるものを想像で「掴みとったつもり」になったことを、本当に掴みとったと勘違いしているような気がする。夢の中では夢と気づけないみたいに。
 私の頭には、情報を遠目に眺めるだけじゃなく、手を伸ばしてつかみとる触手が欠けている。
 はじめからないわけではなく、大昔はあった。たぶん子供の頃には。でも今は萎えてしまって、頭から飛び出していかない。
 だから私の頭には、子供時代に集めてきたがらくた、以外のものがいっこうに増えていかない。それはゴミ屋敷の住人のような暮らしである。ゴミ屋敷の住人がせっせと集めてくるのは、未知の他人が毎日あたらしく捨てているゴミ、ではないのだ。子供時代に集めたがらくたを集めなおしている。集め損ねた分や、散逸した分を集めなおしているので、それは屋敷一杯にふくらみ、庭から道路へあふれだしても、本当はぜんぜん増えてはいないのである。