短歌日記

 何日か前のレトロスペクティブ

  • あたらしいかさぶたがある夜空にはぼくらのいない窓しかなくて

 という短歌をのせたのだが、これは下句がかなり弱かったと思う。もともとは「あたらしいかさぶたみたいな赤い星(火星)のある夜空を見ると、たくさん星が輝いてるけれど、そのいずれにも自分はいないのだ」というようなことを短歌にするつもりだったのだが、「夜空」で「星」ではあんまりだと思ってちょっとずらして「窓」にしてみた。「窓」を星の比喩として読むのは無理があるから、これだと単に夜空の下にひろがるたくさんの窓の明かりを眺め、孤独を感じているようなつまらない話になってしまう。これはやっぱりストレートに「星」でいくべきだった。あと「しかなくて」もよくない。何か曖昧にごまかそうとしているような終り方で、自信なさげなのがいけない。

  • あたらしいかさぶたがある夜空にはぼくらのいない星ばかりある

 だがこうしてみると、上句の「あたらしいかさぶた」だって火星大接近という文脈でみなけりゃ何のことだかわからないかもしれない(そんな文脈に置いたってわからないかも……)。詞書をつけないと読めないような短歌は好きじゃないので、ここはまるごと入れ替えを検討したくなる。そして「星」を生かすことにした以上「夜空」にも代案を考えなければならないだろうか。そこまで改造するとほとんど原形をとどめないというか……この歌はもう死んでしまい、つかえる部品だけとっておいてほかの歌に移植するというのに近くなるかもしれない。そんなふうに未発表のまま保管してある短歌の死体は腐るほどあるが、実際につかうことはめったにないのだった。