題詠マラソンの百首(短歌日記)

先日完走した題詠マラソン2004への投稿歌100首をまずは一挙掲載します。てきとうに読み飛ばしてその下を読んでください。自選五首と自己解説のようなものを書いてるので。


いま地球空洞説を支持するともれなくひび割れるくすり瓶
多い日も安心してる うたた寝にひろがっていくお墓でねむる
ふかづめを運ぶ線路がくつしたの穴から穴 たそがれのみらいへ
ぬくもりを残しそうな手もつぼくに鏡のぼくが目を合わせない
放火からかえってこない放火魔を兄の名前でよぶいもうとが
アフリカを出口ときめた土砂降りの動物園であれがアフリカ
めのまえに数学博士あらわれて消える終点海芝浦で
ごきぶりに食べつくされてからっぽの姫ごきぶりのうごきで動く
まどろみの圏外からのほうき星じみたひかりは昨日をよぎる
鰐の背でチーズを削り終えてなお茹であがらないパスタが沼で
まだ誰もめざめてこないあけぼのに犬は悲観をぼうぼう語る
人生で裸足で家にかえるのは何度目だろうきみは初めて
窓はよく水彩画めき包帯を解くように剥くりんごの皮を
迂回路はみずうみに消えくりかえし峠のわが家が鳴るオルゴール
投げるのはやめて積んでることにした蜜柑の山が早晩おそう
気がつけば乱暴者に慣れていく ひたいから血をたらして照れる
めずらしい免許のせいで地球から追われる夢をみた千回も
法螺貝のロビーに昼の十二時がしのびよる(あなた、山伏ですよ)
沸いたのをかくしておいた風呂に又だれかバスロマン入れたでしょう
破産した遊園地ごと密林の島をひきずってゆく出口へ
胃ぐすりは効かないものと決めつける砂丘って夜歩かないけど
まばたきは上野―御徒町間で夜の破片をちらかす ふたり
手に負えぬ希望が春に蔓延っていてうっかりと破滅しそうだ
呪われた地区です違反駐車には毛が生えますとミニ・パトカーが
なべて死に例外なしと言いかけて言わず怪談会をはじめる
明け方の宅配便で起こされる ひろげれば遠く湯気たつ芝生
鍵穴をくちびるに持つドアとして天国に立つ諦めながら
死んだことない人ばかり死ぬでしょう ほほえむ人の着衣にみだれ 
眠れないことと火星で鳴りやまぬ太鼓は無関係ですか先生
捨て台詞ばかりを叫ぶ鸚鵡にはかつて非運な飼い主がいた
やや低くとどまる月に鳥肌が浮いて再入力のパスワード
百つぶの眠り薬のねむたさでバナナ・ボートが眉毛をはこぶ
ひさしぶりの真夜中だから握手する半分砂にほどけた腕と
荒海に影がただようゴンドラは月へふたりをつれ去る頭痛
わたくしと私による二重唱もんしろちょうは咽せるほど飛ぶ
流刑地は蜂の羽音につつまれて時おり落ちてくる手のひらに
愛嬌がセーラー服を着たような死神だった日傘のうえに
くちびるにハイビスカスを震わせて連絡を待つ あらあらかしこ
黒髪をひきずる今朝の彗星にかけ損なってうかぶモザイク
きらめいて奈落へのびる階段をねずみの耳の人がみちびく
生き物のいない星では出血が稀れだから包帯が足りなくて
やり投げの槍で撃ち落とされたときぼくらは夏の映画を観てた
そこだけが濃くなってゆく暗闇を指で押す スイッチとは知らず
髪や歯が散らばっている秋までのあぜ道をゆく古いダンスで
棕櫚の樹をぬすんだあとへ家元を埋めもどすため山ほどのレイ
ゆびだけの生きものになる練習 毛 爪 歯 皮膚を脱ぐ てはじめに
ただれてる草 ひびわれた道 きみは機械のとまる音でめざめた
振り子しか音をたてない 知恵熱がふたたび知恵をうばう世界で
はじまりは虫歯のようにち く た くといずれ会議をつつむ潮騒
祝福とおんなじ意味のくちぶえを吹くひともいる稀れに隙間で
欠けているあと半分を痛がれば月のあかりのふりつもる皿
まちがえた声であなたを呼ぶ部屋のどこにでも手は壁ほど白い
ゆび先でふたつに折れた白墨のどちらを棄ててえがかれる円
日なたしかない道に出る 燃えさかる へくそかずらのリスクをはかる
雨ばかりつづく日記に人間の世界は溶けてのち穴ひらく
墓石を小窓のように磨く手が墓のうちなる手とさぐり合う
ありえない表情をするガーゼしかまとわぬ姉が手鏡にいて
目をとじて行ける何処かは廃屋の八百屋が燃えたにらをならべる
うたかたの矛盾レコードくるくると沈む時計がひどくあかるい
とかげ園閉鎖の報はとどかない線路が袖に絡みつくから
出鱈目に積み木かさねた階段をいま、高台からまちを、ながめ、て
はだけたらそこから鳩が飛びそうな胸元に陽のあたる寂しさ
いないので肘掛けに置く夏帽子たっぷり聞いた雷のあと
イニシャルで呼びあうような花畑あっちのきわは腐乱のかおり
水色のひまわりくらい咲きそうな気がした枕木に顎のせて
蝶の目で慣れない遊園地を見てる鋼鉄の籠ゆさぶる腕や
回らないビデオです 欠けていく王が下着の中まで使者をひろげた
あの傘の下だけ夏を止めている 走査線から睫毛こぼして
九十九階 奴隷市場です どれいのなまえ売場は百階でしたか
びしょぬれの野原で君はにせもので足りないねじをバイクから摘む
みえないもの目で追うつもり点線が白昼まちを這い回るんだ
心臓で海老を茹でます親方 さあ親方 四股でもふみますか
逃れないあなたになったおめでとう朝までつづく廊下おめでとう
炎天をキリンがあるく回路とは思えなけれどあるく炎天
あさがおの蔓で私が動けない隙に切符を拝見されます
やぶれるといい匂い しない匂いの例おもいうかべるところ 降雨
母親のドレスのなかで私しかもういない 坩堝たとえば手足も
この匂い洋梨だねと何もないところを歩く しびれた膝で
建物でいえば戸口をふさぐような君はぐるぐる整形するよ
ほどけたら縫い目はみないことにする半音階でくちずさんだり
くらがりでイラクをさがす ろうそくが照らしたものは地球儀じゃなく
すがめして見ていることも軟禁にちかづく船の遠い行き先
くだものの皮をつないだドレスしか売らない店にあれからなった
抱きにくい抱き枕しか抱いたことない 樹のような寝息をたてる
屋上と屋上がつながって 道 になるほどのふるい、再会
虻蜂のいこい場となるひだり胸 チョークで路にかかれた人の
混沌を首ながくして待つぼくら終バスをまつひとにまぎれて
泣くほどの文句があってあじさいがこなごなになる手紙を読むよ
三鷹まで歩いてかえるからけつのぼくら 三鷹に家はないけど
あれぜんぶ木琴でしょう鳴るでしょう線路はめぐる海のほとりを
道なりにゆく埋立地うめたての海の気配をこわがりながら
夏空がはるばると焼く休日のだれもがいずれ滅びる家族
列車から手をふるぼくを三日月としてゆうやみの川面が揺する
遠くでも犬だとわかるその影をひきずりながらどこまでも坂
気がふれてしまった草を埋めもどす十字路ゆきかうあし油蝉
すこしくらい長いひる寝を人類にしっぽが生えそろうまでの夏を
こわれてたミシンは夏の庭先を曖昧に縫う てくびのように
きみはいま溺れる者につかまれた藁 まばたきで泡を数える
アンドロメダ界隈なぜか焼け野原 絶唱にふさわしいルビをふる
蛇の道にへびの足跡 さようならネット おはようネット ぼくたち