小説の行き先

 小説を書くときは地べたに這いつくばって芝目を読むように、その小説がどこへ行こうとしているかをあらかじめ読み取って正しくその方向へむけて、いくども修正をくりかえしながら言葉をつなげていく必要がある。どんな小説を書くのかを選ぶのは書き手の自由だが、いったん選ばれてしまった(書き始められてしまった)小説をどのように書きつづけるのかについて書き手にあたえられた自由はきわめて小さく、この不自由さをなげやりにではなく勤勉にそして多少とも興奮気味にまっとうできる資質が小説を書くためには必要なのかもしれない。それは書き始められてしまった小説のなかに書き手をしばりつける運命をみいだすことの快感、のようなものが感じ取れる資質であり、あるいはしばりつけられることが快感であるような運命をあらかじめ小説に刻印させることのできる資質、である。