正岡豊『四月の魚』の十首

 これからは読んだ歌集の十首選をのせておくことにした(付箋をつけて歌集を読む習慣をつけるために)。『四月の魚』は近所の図書館にあるのをつい最近まで気づかなかった。俳句の棚にあるんだもの。



きみが首にかけてる赤いホイッスル 誰にもみえない戦争もある
さめればいつもあかるき街よ花束を背にくくりつけておくれ、誰か
玩具店その店先に売られたるやどかりを買いかえる春の夜
ひまわりよ映像なんかになりたくないぼくのからだをつらぬいて咲け
そのころも今もやさしい蝉たちが道の上運ばれていった蟻に
草のかげで眠りたいのにどこもみな螢いてああもう、バスが出る
歩行すなわち演奏となるくやしさの二月柊をたたき折る
君は問え君の時間が闇に降りしずかに〈私(まぼろし)〉を成す理由(わけ)を
まるで荒野に荒馬あらわれたるごとくひとつめの棺の上に蠅
雨に傘ひらく何かの標的となるかもしれぬことも知らずに