電話

 テレビでアナウンサーが中国語で喋っている。砂浜に埋められていた死体の身元が判明したという。私は中国語がわからないがその部分だけははっきりと聞き取れた。掘り出された遺体の映像が五分間くらい無音のまま流されている。トイレからもどってきたらまだ流れていた。いくら見せつけられても私が自ら罪を白状することはありえない。電話が鳴って切れた。鳴ってまた切れる。鳴る。切れる。鳴る。切れる。チャンネルを替えると死体が今度はインタビューに答えていた。だがなぜ中国語なのだろう? 埋めた男はもっと若い日本人だったのに。電話が鳴る。鳴り続ける。

現場

 その男は顔半分が遊園地だった。
「入場料はいくら?」
と訊ねると
「まだ工事中なんですよ」
 そう云って男は指の先まで真っ赤になった。

ゴースト・ストーリー

 もし生まれ変わりを信じるなら、前世で幽霊だった人もいることになる。
 私は壁にぶらさがった上着も幽霊の一種だと信じる人間だから、自分が昔幽霊だったとしても、ある日古いいまわしい記憶がよみがえってもうろたえはしない。
 帽子掛けに帽子が鈴なりで、それは私のもぎとられた頭の数をあらわしている。
 玄関に脱ぎ散らかした靴の数だけ私の足首はぽろぽろと転がり落ちている。
 私は蛇が脱皮するようにいくつも私を脱ぎ捨てて今ここに座っているのだ。そんな私の出自が幽霊でも驚くに値しない。