続いてない廃墟ブック

 監視カメラに悪態をつく寄り目の乞食を、週末のパーティーで特別上映する貴婦人とその愛猿フィッシュ・ボーボー。わざわざ貧民街に家を建てたのは不幸な人間生活の鑑賞と、自警を口実にした合法的な殺戮が目的だった。フィッシュのむきだした歯が嘲笑のような表情をつくる。貴婦人の引き締まった尻にしがみついて勃起するオス猿。画面では女乞食が垢まみれの下半身をはだけて放尿している。いばりの先端が邸宅の石垣にふれた途端、頓狂な警報音とともに巨大なロボット・アームが降ってきて女乞食を拉致。暴れる女はちょうど檻のように閉じられたアームの中で垢と尿にまみれた下半身をばたつかせ抵抗する。だが容赦のない機械は女を塀の内側へ有無を言わさず運搬。カメラは女と檻を追って塀の中へ。たとえ犯罪者でも敷地に招待された人間は清潔であることが求められるため二つの小型ロボット・アームがホースを握って檻へ突き刺さる。洗剤を含むジェット水流が噴射し女は左右から押し寄せる水圧に棒立ち、そこへ頭上から精密作業用ロボット・アームが降臨し腐った象の皮膚のような衣服を奪うと裸の女は泡にまみれようやく本来の肌の色を取り戻しかけた。垢を取り除かれた体に急に羞恥心が芽生えたのか女乞食はしきりと下腹部を隠したがり指の短い手で陰毛のあたりをぎこちなく押さえもう片腕がとりあえず乳を先端だけでも隠そうと貧しい胸をさぐり水流の止んだ檻の中で水滴をしたたらせる女乞食はおびえた顔を見せている。愛猿フィッシュの奇声。画面ではさらに凄惨な出来事が始まろうとしている。この先の古臭い猟奇趣味に目を逸らさずにいられる人物はこの場では、貴婦人のほかにはミイラ伯爵だけだった。
「世界はこの血生臭いシーンを、二百インチモニタの中へ追放した。惨劇は何度でも繰り返す。巻き戻され、この時間の幅から外にはみ出すことがない。これは現在に繋がらないもうひとつの(自立した)過去なのだ」ひからびた唇をわずかに震わせて伯爵は語る。誰の頭にも届かないその声、ミイラが喋る? そんな馬鹿げた話を信じる者はいない。もし声が聞こえたならそれはきっと空耳だ。自分の頭を疑う必要に迫られる。だから初めから何も聞かなかったことにしておく、それが上流社会の利口なやり方だった。フィッシュのむき出した歯が示す苛立ち。しだいにそれは人々の間にも広がった。貴婦人は上映するビデオの交換を下男に命じた。白衣の上下に金色のかつらをかぶった男がうやうやしくビデオ・デッキに近づいてテープを取り出す。
「もう陰気な記録映画なんてうんざり。今夜は踊りたくなるほど楽しいフィクションが必要だわ」客の一人、代議士夫人のガラガラ声が飛ぶ。暗くなったモニタ画面に、熱帯の昆虫並みに毒々しく着飾った酔いどれたちの姿がずらりと浮かび上がる。