齋藤君

 齋藤くん、きみがくだものだったらよかったのに。きみがくだものなら私はよろこんで皮をむくよ、このナイフで。きみの頭をかかえこんでするすると、ナイフの下をすべらせていくと、太陽のひかりが透けるほどうすく剥けた齋藤くんの皮が私のひざのうえに包帯のように垂れてとぐろをまいてゆくよ。
 私は、こんなに白いスカートをはいているから、齋藤くんの皮のうらがわの、薄いピンク色がひざのうえできっとリボンのように引き立つはず。私は、きみへのプレゼントになったような気分を味わうよ。きみがくだもので、くだものが大好きな私はきみをナイフで剥いていく。すると君を剥いている私が大好きなきみへのプレゼントにだんだんなっていく。なんて完結して、出口のないきれいなしくみなんでしょう。私はくだものが本当に大好き。たとえどんなくだものであっても。酸っぱくても、苦くても、かまわない。
 だけどきみはくだものなんかじゃない。だから私は齋藤くんのことが本当はだいきらい。私がきみにしてあげられるのは、もしきみがくだものだったら…と心の中で想像してあげることだけです。