クイズ

 本当のドアはひとつもない。すべてのドアは偽物で、壁に描かれた絵である。
 では問題です。私はいったいどうやってその部屋に現れたのでしょう?


(答え:壁にドアを描いたとき一緒に描かれた。)

不正確な再現

 積み木をかさねるみたいに物語をつくったとして、完成した積み木を眺めることが物語を読んだことを意味しないのは明らかだ。読者はもう一組の積み木を手渡され、そこにある物語を見本に自ら積み木を積んでいく過程が読書である。だから最後に部品が余ったり足りなくなることがしばしばある。

箱詰式detective

 探偵は金色の顔を、箱の蓋をずらした隙間から半分のぞかせた。探偵はつねに箱詰めされている。そして組み立てられることがない。だから探偵の金色の顔は、机上から未だ離れ離れの手足や胴の詰まった段ボール(未開封)のちらばる床を、眺めるたびやや青ざめて見えた。
 助手は? 働き者であるはずの助手もまた、未開封の箱で雑然と積まれている。こちらはまだ醒める気配すらない。荷解きの済まぬ事務所に足を踏み入れた依頼者は、探偵史上に類を見ない<組立式探偵>の推理術の恐怖に触れる機会をみすみす逃し「住所あってるよねえ?」などとつぶやきながらまた出て行く。薄暗い巷へ。引き止めろ、黄金探偵。

顔と話す

 窓から人の顔が覗いた。ここは十一階なので普通ならありえない。けれど顔は窓枠の中を動かず、目玉がぐるり部屋を見わたす途中にぼくと目が合った。何してるのだ。そう訊ねたのはぼくではない。何って、新聞を読んでいる。すると顔はしたり顔でうなずき、訃報欄を見ただろうと云う。いやまだだ、とぼくが答えると、じゃあすぐに読めと云った。わかった、とは答えたが釈然としない。今日の訃報欄はがらんとしている。聞いたことのない陶芸家の死を読んでいると、それが俺だ、と顔が云う。そうか、とぼくは答えた。じゃあ行くぞ、と云い置いて、顔は窓を離れた。ぼくは紙面に目を戻した。巨人戦の視聴率が、過去最低を記録したという。