スパイ写真

 この国はつねに頭上から見わたされているのだ。将棋盤上の駒のように人は頭頂部にそれぞれの役割を文字で記されながら、頭上の視線が帯びていく躊躇と決断の色合いをからっぽな自由意志をもって即座に代行する。
 たとえばこの写真に見覚えはないか?月曜の夕刻あなたが何も買わずパン屋のドアを出てきた瞬間の地球だ。この国のか細い輪郭をびっしり埋め尽くすように密集する黒点が視線の主であり、この中のどれかが載せたプレイヤーにより「ひとつもパンを買わない」行動を選択されたあなたは「食べたいパンがひとつもない」という感想を抱いた。あなたの自由はじつはあなた自身のものではない。
 かかる報告をする私は、敵の背後に立ち肩越しにあなたにそっと微笑みかける者である。つまりあなたのスパイ。私が撮影する地球には私自身の姿さえ写り込んでいるだろう。