月は太陽の幽霊

 掘り進むのは井戸でなくらせん階段なので、私たちの関心はやはり消えることのほうにある。森がそこで内側に尽きているような、くり貫いたような空き地で。それぞれの方角から、それぞれの獣道をつかい迷い込んできたぼくと、彼女と、君と、あの子を、ただひとつの人称で呼ぶなら私たちだが、ふたつに分けるとすればぼくと彼女らだった。
 ぼくの一歩一歩がすなわち階段となり、ネジ溝を刻むあいだ彼女らは下ばえにだらしなく寝そべるだけの怠け者をつとめる、そして夜。今度は彼女らが底へと降りていく番だ。
 月が真上にさしかかる時刻が、この地方ではひと晩に幾度もおとずれることを彼女らは知るだろう。中古車のルームミラーでほほえむ、此処にいないはずの青白い乗客がこの場合月面を輝かせる昨日の太陽なのだ。彼女らは夜のあいだじゅう、夜の来ていない場所をさがすために「穴掘り人足の死んだような居眠りの歌」を999番までそらで歌い続ける。ただし鼻歌で、ひどい鼻づまり声のままで。