ピクニック帰り

 まがりくねった道を川沿いに下ってきた。太陽が水しぶきを跳ねあげて何度も川面に身を投げる。そのたびぼくは目覚めて自分が道の途中にいるのを気づく。
「家族が出払ってしまった家の寝室で、目覚まし時計のベルが誰にも止められない」
 というのがぼくが呼び戻される理由だった。靴の中でぼくの足は豆だらけだった。
 蜂蜜を塗った食パンをたっぷり余らせたので、リュックは行きと変らぬ重さだ。まがりくねった道をまっすぐにショート・カットして風が吹き上げてくる。風には機械油の匂いが混じる。町からここはそんなに遠くない。
 道は川に沿うだけでなく、川をまたいだり、川に踏まれたり、複雑に両者は絡まりあって進んでいる。川は落ちるように軽快に斜面をすべり、道はひきずるようにゆっくり斜面を這う。どちらも行き先は一緒で、めだかでも木の葉でもないぼくはひたすら道を行くのだ。
 川は工場の敷地に入るとたちまち廃水で濁り、刺激的な匂いの泡を立てはじめる。
 ぼくは道とともに正門をくぐった。むこうから部品が流れてきたのであわてて飛びのいて、雑草と石ころの上で通過を待つ。
 背中の荷物はいよいよ重くのしかかり、溶けた蜂蜜がリュックの底を濡らしている。甘い匂いを嗅ぎつけた蟻がぼくのズボンの中を駆け上る足音がする。チケットを半券にするために引きちぎる点線のように。
 沿道の工員たちは手に手に日の丸を握りしめている。何も持たないぼくは、拍手と曖昧な手振りだけで無数の部品を見送った。ラインのかなたに遠ざかる部品を。