黒い道

 喉元をおさえつける指に力がこもると、堰き止められた血管の先が空虚な黒い道に覆われていくのを私は感じた。
 そして朝。いつものようにカーテンの穴という穴から漏れる光。牛乳を注ぎいれたコップがテーブルに置かれ、ちいさな羽のある生物がひとつ表面に浮いている。
 私は指の腹でそれを掬った。生物は濡れた羽をぶるっと震わせるとどこかへ飛び立った。 ヘリコプターのプロペラが低い女声のコーラスをともなって近づき、頭上にしばらく留まる。縄梯子の先端が屋根にあたる音がかすかに響く。なにかをがなりたてる声。部屋には古い懐中時計の匂いがたちこめている。