ハロワカホリク 001

足りないのは勇気だけじゃない

 きみはどことなく売女に似てる。うしろ姿ならジャングル・ジムにも見えるけど。きみのむこうに覗いてしまうこの国の現実が、埃っぽいクラクションまみれの道と道をかさねた×(ばってん)まみれでいる訳を、きみの口からぼくが話そう。ごはん食べながらお喋りしてついこぼしてしまうミートソースみたいに。今度はぼくの番だよ。
「すべての信号機に動脈の赤と、静脈の青と、おしっこの黄色を取り揃えております。(さらには)踏みしめながら彼岸へ至る鯨幕も、みどりちゃん(歩行者用)の瞬きに照らされて。世界の中心が移動しました!あっちへ!嘘ですこっちです!ぼくたちは!結局!墓場につめたい布団を敷いてゆうべの夢へ!逃げ帰る途中の!やせっぽちで!頭のたりない!人類!なのです!人類が!いっしゅんで通り抜けた風穴はこちら」
 きみのだらしないアルバイト。つめの色が何色だったかで思い出す、仕事中にまぼろしの捜査官たちが繰り広げるいたちごっこの、そのいくつかの種類。悲しいのや可笑しいの。ほんと馬鹿みたいに、きみの下着や奥歯をマッチで炙れば暗号でも浮かぶみたいに、信じてる男性たちのプラスチックの喉仏たち。それをひとつ残らず押し込むとまぼろしは止まる。さあ現実だ。きみはずっと同じ姿勢で、部屋の壁に貼り出されたセリフを一字一句忘れないくせに、わざと何度も云い間違えてる。外国人みたいに。外はいつもその頃にはあかるくなっている。きみは駄目なアルバイトでいたかった。駄目なアルバイトの時給は百円から一円たりとも値上がりしない。きみは百円のままでいたい。きみは百円あればぴったり一時間動くから。コイン投入口に巻きつけた包帯を、ほどくのはぼくの仕事でそれだけがぼくの仕事。男子一生の仕事。そうきみがさっき決めたのだ。
 そして現実には痛くてたまらない腹をさぐりあうのだ。