私に注目せよ。

 会ったことのない人が多いので緊張していた忘年会でふと気がつくと、目の前の人々がみんな私の話に耳を傾けている。私はこの人たちの注目を浴びている、私はこの場で今すごく期待を集めている。そう私はかなり進んだアルコールの作用によって信じ込むことができた。すると私の勢いは全開にされた蛇口のようにとどまることを知らなくなった。


 そのような経験を通じてわかったのが、私はもしプロの物書きに任命されたらたぶん今より何十倍も面白いことを狂ったように書き始めるであろう、ということだった。
 だが今は何十分の一くらいかの面白さにとどまったものしか書けないのである。それは私が現在は人々の期待と注目を集めていないからだが、何十倍かの面白さを発揮してからでないと期待と注目を集めることはできない。
 そして期待と注目を集めていない以上はまるでやる気が出ないのが私の特徴なので、何十倍の面白さにならないからプロにもならないままである。
 このカフカ的状況からの出口を論理的にさぐりだそうとしてもだめだ。論理を正直にたどればたどるほど論理じたいが迷路と化し、出口に通じない枝道ばかり増え続けるのがこうした状況の特徴なのだから。
 ふだんはかぎりなく廃人のような生活の人間だがステージに上げてしまえば想像を超えた凄いことをやる奴だ、ということをここでは私の中で確認するにとどめたい。できればそのステージには酒瓶が用意してあることが望ましい。