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歴史の最後のほうのできごと
古い自動販売機で、消費期限を五年過ぎたコーラを買うのは私じゃなくソノちゃんだ。
電気の通ってない自販機から、ジュースをいくらでも手に入れるすごい技術がソノちゃんにはある。
私はというとゴムボートを骨の折れた日傘で漕いで、朝から焼け野原へ出かけて行ったきり。そこでへんな匂いのする灰をかきあつめて家をつくっていた。
灰でできた家には誰も住むことができない。壁にちょっと背もたれただけで、風がひと吹きしただけで家のかたちを終えてしまうから。
そんなはかない家はソノちゃんと住むのにぴったりだと思えたので、私は日が暮れるまで黙々と作業をつづけた。
彼女がそれを気に入るとはとても思えない。きっと私がまた役立たずな妙なものをつくったといって、顔色を変えておこりだすだろう。
あなた何。あなたは。お荷物?私の。お荷物?自分で、歩く気もないの。ねえ。
私が泣きそうになりながら黙ってたり、へたな言い訳をするのを待って(私はいつもきまってそうなるのだ)ソノちゃんはにぎりつぶしたコーラ缶の角をつかって私をぶつのだ。
どんなに手加減されたところで、切れやすくなってる唇はすぐに鉄の味をしはじめる。
するとスイッチが切れたみたいに身体が無抵抗になる。きっとなるから。
灰まみれの髪で夜の河のほとりに立つ若い女を、怖ろしいものとして想像したことはなかった。