顋門と震動

 ヴィアンの『心臓抜き (ハヤカワepi文庫)』を風呂で読んでいたら「顋門(ひよめき)」という知らない言葉が出てきたので風呂を上がってからヤフーの辞書で調べた。すると「幼児の頭蓋骨の泉門(せんもん)のこと。骨がまだ接合していないために脈動に合わせてひくひく動く、頭頂のやわらかい部分。おどりこ。」というのが大辞泉の回答だった。さらに大辞林のほうも見てみると「〔ひよひよと動く意から〕乳児の泉門(せんもん)。」とあって、乳児の頭の柔らかい部分から今にもひよこが飛び出してきそうな「ひよひよ」という擬態語は使い道がえらく少なそうだが、というかこの場面で使うこと自体すでに無理がありそうに思えるが、それは私の中に入っている日本語が20世紀後半製だからで、乳児の頭のひくつきを見て「ひよひよしてるなあ」とべつに奇をてらうでもなく誰もが納得できた時代がかつて日本語にはあったのだろう。そんな時代は通り過ぎてしまっても「ひよめき」という言葉だけは残ったりもするが、すでにその「ひよめき」という言葉さえも見聞きせずに三十七年生きてこれる時代が日本語には来ている。


 まったく関係ない話だが、近頃よくアパートの居間と台所をへだてるガラス戸がちょっとした地震なみに、だが地震より交通量の激しい道路のそばの家の揺れに近い震動をみせることがあるのである。おもに夜である。深夜が多い気がするがついさっき(21時ごろ)も揺れた。この揺れの原因はどうやら二階の住人のセックスらしいとわかった。