UHFで心霊ドラマ

 このあいだ帰宅するときふとアパートの屋根を見上げると、「あ、UHFのアンテナがあるぞ」と私は驚いた。うちのボロアパートにはUHFのアンテナがなかったはずなのである。少なくとも私がここに引っ越してきた十年前には、確実になかった。横浜から今の場所に移ってきたらテレビ神奈川が見られなくなってしまい、アンテナ線のつなぎ方などいろいろ試した挙句、アンテナ自体がないという根本的な問題に気づいてなぜか忘れたがひどくがっかりした記憶がある。なぜそんなにテレビ神奈川が見たかったのか。
 そして十年の歳月が過ぎ去った。いつのまにかアンテナがついているということは今ではテレビ神奈川が見られるはずだし、きっと何年も前から見られる状態になっていたのだろう。けれど誰もそのことを教えてくれないから知らないままだったのだ。
 ゆうべさっそく『「超」怖い話』のドラマ版を見てみた。テレビ神奈川テレビ埼玉などで放映中の恐怖ドラマだが、見られないと思ってあきらめていたので見られてうれしい。でも見られないと思っていたのですでに放映された何回分かは、本当は見られたのに見逃したことがわかりとても残念だ。
 でも本当は見始める前はとくに残念な気持ちではなかった。見られることの嬉しさが勝ったから、ではなく、ほとんど期待してなかったので「見逃した」というような期待を前提とする気持ちは湧かなかったのだ。十年ぶりにテレビ神奈川が見られる記念に超怖のドラマでも見ておくか、というくらいの軽い気持ちで、少しだけ興奮(それはこのドラマがというよりUHF局を見ることへの興奮)を感じながら見始めると、予想に反してこれがなかなか素晴らしいドラマで私は画面に釘付けになる。
 おじいさんの顔をした女装した幼児サイズの人(山岸涼子汐の声」に出てくる幽霊みたい)が、主人公らしき暗い表情の女の子と言い争ってたり、お母さんらしき女の人が部屋に入ってくるとなぜかミニ女装者は消え、母親が女の子を殴り始めたり、事情はさっぱり分からないが目が離せない展開。そしてお父さんらしい中年男性が部屋に入ってくると娘に子供時代の回想を始める。回想の中にあらわれる首なしの幽霊たちの静かな行進が素晴らしく、深夜のテレビ(放送終了後とか)はすべてのチャンネルで首なし幽霊の行進を映すべきだ、と思わせるほどだ。オリンピックの開会式での行進にも首なしの幽霊を混ぜておくべきだった、選手十人に一人くらいの割合で。CGでいいから。と思わされる。私は開会式を見ていないが。
 生首の掛け軸の前で小さい子供(どう見ても精通前)が股間に手をやってそわそわするシーンとか、かなりきわどいものを扱いながら、変に思わせぶりになってないのもいいと思った。陰鬱な家庭の中に家庭の陰鬱さの化身のような怪異が発生する感じは、テレビの心霊ドラマでいうとダムド・ファイルの雰囲気に似てるかもしれない。こちら側の人があちら側の存在に遭遇するドラマではなく、こちら側からあちら側へ引きずり込まれていく人々のドラマなのだろう。つまり正気でなくなってく人々のドラマであり、それをこけおどしで目をつぶらせるのでなく、淡々と禍々しいものを直視させるように見せてくる。直視してもそれはどこかぼやけていて、スプラッタ映像のようなユーモアを発揮しない。逃げ道は絶たれてる。監督は亀井亨という人らしい。