女子トイレで女装

 読みかけで何ヶ月も放ってあったディック『ライズ民間警察機構』を再び読み始めた。いまニセの女子トイレにフレイア・ホルムという女の人が突入したところまで読んだけど、もう素晴らしすぎて呆れますね。突入先はトイレのかたちにカムフラージュしたテレポート設備なんだけど、働いてるテレポート技師の禿げたおっさん達がわざわざ女装してるの。女子トイレだから。こういう杜撰で無意味な律儀さのようなものが、何かほかの事に気を取られたようなもっともらしい筆致で描かれるのがディックの真骨頂。
 数ヶ月のブランクで筋がよく分からなくなってるし、またこの小説じたい、作者の死後発見された原稿をカフカ並みに継ぎはぎされてるらしいし、それでなくてもディックに破綻はつきものだから、ストーリーを追う努力はするだけ無駄と思って放棄しました。借金督促バルーンとかいきなり襲いかかる化粧台とか、絶妙のタイミングでその場で思いついたかのように投入されるがらくたのような小道具が読めればいい。全体のストーリーを無視した、人形遊び(=小説書き)における瑣末なアドリブの冴えに関してこの作品はディック作品の中でもなかなかのレベルじゃなかろうか?