帽子

 あなたが私のヒモでいたあいだ、私は赤い帽子の似合う犬を飼っていた。犬に似合う帽子はあまり多く存在しない。あなたがそれを見つけてきたことが、あなたを少しのあいだ私のヒモにしたのかもしれない。犬が嫌いで、まるで殺されそうな目で見ていたあなたが、あの赤い帽子を手に入れてきたのは意外だった。けれどそれは本当は、犬ではなく私のために(きっとお金を使わずに)手に入れてきた帽子だったのだ。
 私はそれを被るのはごめんだった。赤い帽子など私に似合ったためしはない。ぞっと身震いして受け取ったそれを、何の気なし犬の頭へ載せてみる。すると新しい窓の鍵がひらく音がするんと響いた。その日からだった。赤い帽子の似合う犬と、靴の脱ぎかたの汚い男をなぜか私が養う破目になったのは。
 犬に帽子がいつまでも似合いつづけることはない。それを私は知っていたし、あなたは知らなかったけれど、知ることと知らないことのあいだの不公平は、あなたをいつでも喜ばせた。あなたが嬉しそうにしているとき、罪滅ぼしのように私はお金を使いつづけたし、犬は赤い帽子がまるで娼婦のように似合いつづけたのだ。