沈滞物件じょうほう

壁に塗りこまれて一ヶ月後に掘り出された人がバイト先に復職してきた。その人(千葉さん)は社員だからいろいろ保証とかもあって別にうらやましくないけど、待遇としては手厚いわけだ。もちろん腐ってて触ると書類が汚れるから自発的に手袋はしてる。直接かかわりあう仕事じゃないんで遠目に見てたけど、壁に塗りこまれる前と較べたら口数が減ったみたい。つまんない冗談とか言わなくなったみたいでそれはみんな内心喜んでるんじゃないかな? 犯人まだつかまってないけど千葉さんはべつに気にしてないみたいで、今も同じ部屋に住んでて壁の穴は段ボールでふさいでるらしい。どうして平気なんだろうねとバイトの同僚の子に話したら、知らないんですか千葉さん前にもそうゆう目にあったんですよ。前にも? ってすごく驚いたらなんだ本当に知らないんですかあーって呆れた顔をされたので、腹が立って棍棒で気が済むまでぶちのめしてやった。棍棒は会社のあちこちに満遍なく転がってる。何しろ当社の一番のヒット商品なのだから。それで三十分後意識を取り戻した同僚の子が言うには、千葉さんは入社してすぐにも無断で一週間も会社を休んだらしい。心配した同期の子が見にいくと、鍵があいてて部屋の壁の一部だけ色が違うから、あやしいと思って掘ったら血まみれの千葉さんが埋まってたんだって。今回と同じ壁だよ。きっと学生んときから何度も埋まってるんじゃない?ベテランだよねーと二人で笑いあい、気がつくと終業時刻だったのでタイムカードに猛ダッシュ。みんな考えることは一緒みたいでお祭りみたいな混雑の中、一体いつになったらこんな生活を抜けれるんだろう。あるいは死ぬまでずっと。と目の前が暗くなった。